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署長は応じなければならないか。
『解説』
一 弁護士会の照会
弁護士法二三条の二第一項の規定は、次のようになっている。
「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して、必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があった場合に、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。」
そして、同法同条第二項は、次のように規定している。
「弁護士会は、前項の規定による申出に基づき、公務所又は団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」
この規定に基づき、火災原因調査の結果に対し、消防署長に報告を求めてくるものである。
この弁護士法二三条の二の制度は、公正な裁判等のために認められているものである(福原忠男、弁護士法十三一頁)。
弁護士会は、弁護士の品位を保持し、弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士の指導、連絡及び監督に関することを目的として、設立された法人である(弁護士法三一条)。
弁護士会は、地方裁判所の管轄を区域ごとに設立しなければならない(弁護士法三二条)ことになっており、現在、東京都以外の各地方裁判所ごとに一つの弁護士会が設立され、東京都では、「第一東京弁護士会」「第二東京弁護士会」「東京弁護士会」の三つの弁護士会が設立されている。
弁護士になろうとする者は、入会しようとする弁護士会を経て、日本弁護士連合会に登録しなければ、弁護士となれない(弁護士法八条、九条)。又、弁護士は、所属弁護士会を変更するには、新たに入会しようとする弁護士会を経て、日本弁護士連合会に登録換の請求をしなければならないことになっている(弁護士法一〇条一項)。
そして、弁護士の法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない(弁議士法二〇条一項、二項)。弁護士名簿に登録又は登録換を受けた者は、当然、入会しようとする弁護士会の会員となり、登録換を受けた場合は、これによって、旧所属弁護士会を退会するものとする(弁護士法三六条)。
弁護士会は、弁護士自治の立場から、所属弁護士に対して、懲戒権、監督権を有する(弁護士法三一条、五六条以下)。
このように、弁護士は、必ず、いずれかの弁護士会に所属して弁護士業務を行っている。但し、活動する範囲は、日本国内のどこで活動してもよい。
そこで、弁護士の所属する弁護士会が、弁護士の申出を受けて、弁護土法二三条の二の照会をするのである。この場合に、弁護士会は、これを照会するかどうかの選択をして、照会することになっている(同法同条一項)。
従って、弁護士会のチェックが入るので、不適当な照会は少ないことが考えられるが、必ずしもすべての照会が、適当であるともいえない。
そこで、この照会があったとき、消防署長は応じなければならないがが、本事例の問題点である。
この照会は、以上のとおり弁護士法に根拠を持つもので、法的根拠はあるが、強制力を持ったものではなく、あくまで任意に報告を求めているものである。従って、消防署長がこれに応ずるか否かは、消防署長の裁量に属することになるが、他方において、法的根拠のある照会なので、できる限り応じるべきであろう。
しかし、回答することにより、他人のプライバシーを侵害したり、消防行政の運営を阻害することもあり得る。そのようなことから、照会に応じて回答する内容は、一定の制約があるといえよう。
弁護士会の照会に応じて、政令指定都市の区長が特定の人の前科及び犯罪経歴を報告したことにより、その人の名誉が害され、市の国家賠償責任が認められた判例があるので注意を要する(最高裁昭和五六年四月一四日判決)。
そこで、消防署長としては、事例一の取扱指針等に基づき、弁護士会の照会に応じ回答することになろう。

 

 

 

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